PANELIZE Technical Notes #003
中国からサイネージを輸入する前に知っておきたいこと
現場で役立つ知識を、現場の経験から。
PANELIZE Technical Notesは、デジタルサイネージやLEDビジョンの現場で実際に経験したことをもとに、設計・導入・運用の考え方を共有する技術メディアです。
私たちは「何を売るか」よりも「なぜその構成を選ぶのか」を大切にしています。
現場には製品カタログだけでは解決できない課題が数多くあります。
PANELIZE Technical Notesでは成功事例だけでなく、失敗から学んだことや、設計時に迷ったことも含めて共有します。
正解は一つではありません。しかし、現場で積み重ねた経験は次の現場で必ず誰かの役に立ちます。
日本のデジタルサイネージ業界が、もっと面白く、もっと発展することを願って。
はじめに
「中国からサイネージを輸入したいのですが、何から始めればいいですか?」
これまで何度もいただいた質問です。
インターネットで検索すると、
「Alibabaでメーカーを探す方法」
「輸入手続きの流れ」
「関税や消費税について」
このような記事は数多く見つかります。
しかし、私が本当に知りたかった情報はほとんどありませんでした。
例えば、
- メーカーは何を基準に選ぶのか。
- 不具合が発生したら実際に何が起きるのか。
- 中国メーカーとの保守対応はどのように進むのか。
- 保証期間中でも本当に安心なのか。
こうした「輸入した後」の話はほとんど公開されていません。
だから今回は、輸入方法ではなく輸入事業者として実際に経験したことを書きたいと思います。
この記事は、「中国製は危険だからやめましょう」という内容ではありません。私たちは現在も中国メーカーと取引を続けていますし、中国メーカーの技術力を高く評価しています。
一方で、日本国内で販売する以上、輸入事業者として負う責任があります。
この記事では、その現実について実際の経験を交えながらお話しします。
中国メーカーを選ぶ理由
現在、世界中のデジタルサイネージの多くは中国で製造されています。
液晶パネル
LEDモジュール
電子基板
筐体
世界中のメーカーが中国の製造技術を利用しています。
もちろん、高品質なメーカーもあれば品質管理に課題があるメーカーもあります。しかし、それは日本でも世界でも同じです。
重要なのは「中国メーカーだから」という理由で判断しないことです。
私たちは一社一社と向き合い、長く安心して取引できるメーカーかどうかを見ています。
信頼できるメーカーと出会うまで
現在私たちは長年取引を続けている中国メーカーがあります。
しかし、最初から現在のメーカーと取引していたわけではありません。これまで複数のメーカーと取引を行い、多くの失敗も経験してきました。
価格は魅力的でも、返信が極端に遅いメーカー。
品質は良くても、修理部品の供給に時間がかかるメーカー。
営業担当者しか窓口におらず、技術的な質問の返答が遅いメーカー。
実際に取引を始めてみないと分からないことは想像以上に多くあります。
だから私たちは一度取引しただけではメーカーを判断しません。製品だけではなく、その後の対応まで含めて評価しています。
現在取引しているメーカーに落ち着いた理由も一つではありません。
価格。
品質。
使用している部品。
技術者の知識。
修理部品の供給体制。
問い合わせへのレスポンス。
日本市場への理解。
そして何より、問題が発生したときに一緒に解決しようとしてくれる姿勢です。
ガサツな対応をせず、状況を整理しながら技術的な話ができること。
最終的にはそうした積み重ねを総合的に判断した結果、現在のメーカーとの取引を続けています。
中国メーカーとはどう出会うのか
現在、中国メーカーと出会う方法はいくつもあります。
代表的なのはAlibabaなどのBtoBサイトです。近年では、「デジタルサイネージジャパン(DSJ)」のような展示会にも中国メーカーが多数出展しています。
以前と比べると、中国メーカーとコンタクトを取ること自体は決して難しくありません。
私たちは中国の工場へ訪問したことはありません。その代わり、Web会議を利用して工場内を案内していただき、製造ラインや検査工程を確認してきました。
工場の整理整頓。
製造設備。
品質管理。
質問に対する回答。
技術担当者の知識。
画面越しでも分かることは意外と多くあります。
工場を見るというより「この会社と長く付き合えるか」を見ていました。
「おすすめの中国メーカーはありますか?」という質問をいただくことがあります。しかし、私たちはメーカー名を答えることはほとんどありません。本当に重要なのはメーカー名ではなく判断基準だからです。
私たちは完成品だけを見ません。
使用している部品。
技術者の知識。
修理部品の供給体制。
問い合わせへの対応。
日本市場への理解。
問題が起きたとき一緒に解決してくれる姿勢。
こうした「導入後」まで含めてメーカーを評価しています。価格だけでメーカーを選んだことは一度もありません。
私たちは「価格」ではなく「中身」を見ています
メーカー選定で私たちが最も時間をかけるのは「価格交渉」ではありません。製品の中身を知ることです。
完成品だけを見ても本当の品質は分かりません。例えば液晶サイネージであれば、
- 液晶パネルはどこのメーカーか。
- メインボードは何を採用しているか。
- 電源部品の品質はどうか。
こうした部品構成まで確認します。LEDビジョンでも同じです。LEDランプメーカーや電源、受信カードなど、見えない部品によって品質や耐久性は大きく変わります。
完成品だけを比較すると価格しか違わないように見えます。しかし、中身まで見るとその価格差には理由があります。
もちろん、高価な部品を使っていれば必ず良い製品というわけではありません。私たちが見ているのは、「なぜその部品を選んでいるのか」をメーカー自身が説明できるかどうかです。営業担当者ではなく、技術者と話をするとそのメーカーの考え方がよく分かります。
輸入を始めた頃に一番驚いたのはこれでした。日本へ到着した製品の電源を入れると正常に起動しない。
「輸送中の衝撃なのか。」
「出荷前からの不具合なのか。」
原因は分かりません。しかし、お客様から見れば理由は関係ありません。届いた製品が動かない。それだけです。
この経験から現在は、日本国内で受入検査を徹底的に実施し、動作確認を行ってから出荷しています。
また、大型液晶サイネージについては、メーカーへ「立てた状態で輸送してください」と依頼しています。大型液晶を寝かせた状態で長距離輸送すると、自重によって液晶パネルへ負荷がかかり内部に影のようなムラが発生する可能性があるためです。
もちろん、これだけで故障を防げるわけではありません。しかし、過去の失敗から学んだことはできる限り運用へ反映しています。
※これは液晶サイネージの話です。LEDビジョンでは事情が異なります。
これは頻繁に起こることではありません。しかし、海外との取引では可能性として考えておく必要があります。
以前、注文した仕様とは異なる製品が届いたことがありました。最初は設定ミスだと思いました。初期設定を確認し、ファームウェアも確認し、初期化も実施しました。それでも仕様が違います。メーカーへ確認したところ、ハードウェアそのものが異なっていました。
ソフトウェアの違いであれば更新で解決できることもあります。しかし、ハードウェアが違えば交換するしかありません。当然、その間も納期は止まります。
この経験から、私たちは「電源が入るか」だけではなく、「注文した仕様と一致しているか」まで受入検査で確認しています。
輸入した瞬間から、日本での責任が始まる
中国メーカーから製品を購入することはそれほど難しいことではありません。しかし、日本へ製品が届いた瞬間から、その責任は輸入事業者へ移ります。
お客様は中国メーカーへ連絡することはありません。連絡をいただくのは、販売した私たちです。だから私たちは、「メーカーが悪い」という言葉を使いません。輸入事業者として販売した以上、お客様に対する責任は私たちにあります。この考え方は現在も変わっていません。
そのため、私たちはメーカーを選ぶときも、「価格」ではなく、「最後まで責任を持って一緒に対応してくれる会社か。」そこを最も重視しています。
故障してからが、本当のスタートです。
サイネージを輸入すると多くの方が「保証期間があるから安心」と考えます。もちろん、保証制度そのものは重要です。しかし、実際の現場では保証書だけでは解決しません。
本当に大変なのは原因を特定することです。中国メーカーも原因が分からないまま交換部品を送ることはできません。だからまずは状況確認から始まります。
中国メーカーとの保守対応は一度のやり取りで終わることはほとんどありません。例えば、不具合が発生すると最初に届く連絡はこんな内容です。
「電源を入れた状態で画面に何が表示されていますか?写真を送ってください。」
写真を送ります。すると次は、
「電源ランプは点灯していますか?」
もう一枚写真を送ります。さらに、
「筐体を開けて、中を見せてください。」
現場でカバーを開け、内部を撮影します。すると今度は、
「基板上のLEDが点灯しているか動画を送ってください。」
動画を撮影して送ります。数日後、
「交換部品を送ります。」
ようやく部品が届きます。現場へ行き、交換します。……直りません。すると、また最初に戻ります。
「現在の状態をもう一度写真で送ってください。」
このやり取りを何度も繰り返すことがあります。
もちろん、中国メーカーも適当に確認しているわけではありません。原因を正確に特定しようとしているからこそ、多くの情報が必要になります。しかし、その確認作業を行うのは日本の輸入事業者です。
現場へ向かい、写真を撮り、動画を撮り、メーカーへ送り、返答を待ち、再び現場へ向かう。輸入後の保守で最も時間がかかる仕事は、この原因の切り分けだと私たちは実感しています。もちろん、知識があれば自分たちで原因を一発で特定して対処することができます。
保証期間中であれば修理部品は無償で提供していただけるメーカーがほとんどです。そのため、「保証期間中なら費用はかからない」と思われることがあります。しかし、実際の現場はそれほど単純ではありません。
例えば、片道2時間かかる現場で不具合が発生しました。一度目の訪問で症状を確認し、中国メーカーへ写真を送ります。返答は、「この写真では原因が分かりません。」「基板の裏側を撮影してください。」
もう一度現場へ向かいます。次は、「動画でも確認したいです。」再び現場へ向かいます。結果としてその現場には3往復しました。
もちろん、契約内容によっては訪問費用をご請求できるケースもあります。しかし、一度で原因が特定できずメーカーから追加確認の依頼が続いた場合、その都度お客様へ訪問費用をご請求することは現実的ではありません。一度目の訪問はご理解いただけても、二度目、三度目となれば、お客様から見れば「まだ原因が分からないのですか」と感じられてしまいます。メーカーの調査に協力するための訪問費用を、その都度お客様へお願いすることは簡単ではありません。
修理部品は無料でした。それでも、
- 現場までの移動時間
- 技術者の拘束時間
- お客様との日程調整
- 中国メーカーとのやり取り
こうしたコストは確実に積み重なっていきます。
サイネージが故障した際に最も高いコストは修理部品代ではありません。人が動くことです。
だから私たちは価格だけでメーカーを選びません。問題が発生したときに、原因を早く切り分けられる技術力があるか。技術者同士で直接話ができるか。修理部品を迅速に供給できるか。こうした「トラブル対応のしやすさ」まで含めてメーカーを選んでいます。
修理するか、送り返すか。
故障が発生した場合、対応方法は大きく分けて2つあります。一つは日本国内で修理する方法です。もう一つは中国メーカーへ返送して修理する方法です。どちらにもメリットとデメリットがあります。
日本国内で修理するという選択
私たちは可能な限り日本国内で修理することを選択しています。液晶サイネージの場合、メーカーから交換部品を取り寄せ自社で部品交換を行います。
筐体を分解し、故障した基板を取り外し、交換部品を組み込みます。文章で書くと簡単ですが、実際にはそう簡単ではありません。
液晶サイネージではコネクタがグルーガンで固定されていることがあります。輸送中に抜けないよう固定されているためです。その場合はヒートガンなどでグルーを柔らかくしてから慎重に取り外します。無理に引っ張ればコネクタや基板を破損する可能性があります。
また、筐体によっては数十本ものネジで固定されている製品もあります。手回しドライバーだけでは非常に時間がかかるため電動ドライバーは必須です。
もちろん、このような作業は液晶サイネージ特有の話であり、LEDビジョンでは構造が異なります。こうした経験は実際に修理を繰り返さなければ身につきません。
「修理部品は全部在庫しているのですか?」そう聞かれることがあります。答えは、いいえです。PANELIZEでは様々な製品を取り扱っています。そのすべての交換部品を国内在庫することは現実的ではありません。
一方で、自社で調達しているPANELIZE スティック型STBはロット単位で仕入れているため、不具合が発生した場合は修理ではなく本体交換で対応しています。STBは小型で保管スペースも少なく済むため、この運用が可能です。
また、中国から輸入している屋外用モニターについては、輸入時にメインボードや電源部品を1セット余分に調達しています。万が一初期不良や故障が発生した場合すぐに交換対応できるようにするためです。
すべての部品を在庫したほうが良いことは明確です。しかし、どの製品でどの部品を持つべきか。それも輸入事業者の重要な判断だと考えています。
中国へ返送して修理するという選択
もう一つの方法は中国メーカーへ故障品を返送する方法です。一見するとメーカーが修理してくれるので簡単に思えるかもしれません。しかし、実際には多くの時間とコストがかかります。
空輸でもドア・ツー・ドアで片道約1週間。船便であれば片道約30日かかることもあります。つまり、修理して戻ってくるまでには1か月以上かかるケースも珍しくありません。その間、お客様には製品を使用していただくことができません。
さらに、多くの中国メーカーでは保証期間中であっても修理部品は無償で提供してくれますが、輸送費まですべて負担していただけるケースは多くありません。どれだけ譲歩していただいても片道分のみメーカー負担というケースがほとんどです。つまり、日本から中国へ送る費用、または中国から日本へ送り返す費用は輸入事業者が負担することになります。
保証期間だから安心。そう単純ではないことを私たちは何度も経験してきました。
輸入時に意外と忘れやすいこと
輸入を始めたばかりの頃、私自身が見落としていたことがあります。それが輸入消費税です。
中国メーカーへ輸送を依頼するとFedExやUPSなどの国際宅配便で発送されることが多くあります。輸送費はインボイスへ記載されています。しかし、それとは別に、日本到着時には輸入消費税の支払いが発生します。製品受け取り時、または後日届く払込取扱票で支払うケースが一般的です。
初めて輸入したときは、「商品代金は支払ったのに、また請求が来た。」そんな印象でした。実際には輸入消費税です。私たちの経験では、請求金額のおよそ8%程度を目安に資金を準備しておくと安心です。製品代だけではなく、こうした費用まで含めて輸入コストとして考える必要があります。初めからFedExやUPSと直接契約をしたり、輸入代行業者に依頼することで、末締め翌月末払いで対応してくれるのでおすすめです。
日本国内で販売するなら、必ず確認したいこと
最後にもう一つだけお伝えしたいことがあります。それが技術基準適合証明(技適)です。
Wi-FiやBluetoothなどの無線機能を搭載した製品を日本国内で使用する場合、技適が必要になるケースがあります。海外向け製品の中には、日本の技適を取得していないモデルも少なくありません。
ここで注意したいのは、責任を負うのは販売者だけではないということです。技適を取得していない無線機器を日本国内で使用した場合、電波法違反となり、実際に使用した方が責任を問われる可能性があります。周囲の無線通信へ影響を与える可能性があるためです。
だから私たちは、「販売できるか」ではなく、「安心して使っていただけるか」という視点で製品を選んでいます。輸入事業者として、お客様へ不要なリスクを持ち込まないことも重要な責任だと考えています。
まとめ
この記事では、中国からサイネージを輸入する方法ではなく、輸入事業者として何を考えなければならないのかについてお話ししました。
中国メーカーの技術は非常に高いと感じています。実際、私たちも現在まで長く取引を続けています。だからこそ、「中国製だから危険」という考え方には賛成できません。
一方で、輸入した製品を日本国内で販売するということは、その製品の品質だけではなく、保守、修理、サポート、そしてお客様への責任まで引き受けることになります。
私たちも届いた瞬間から故障していた製品。注文した仕様と違う製品。原因が分からず何度も現場へ通ったこと。保証期間中でも赤字になった修理。こうした失敗を何度も経験してきました。その一つひとつが現在のメーカー選定基準になっています。
価格だけでは選ばない。カタログだけでは判断しない。技術者と直接話せるか。使用している部品は何か。修理部品は迅速に供給できるか。問題が起きたとき一緒に解決しようとしてくれる会社か。そうした視点でメーカーを見るようになってから、大きなトラブルは次第になくなりました。
もしこれから中国メーカーとの取引を始めようと考えている方がいらっしゃるなら、価格だけではなく「そのメーカーと5年後も付き合いたいと思えるか。」ぜひその視点でもメーカーを見てみてください。それが結果としてお客様を守ることにつながると私たちは考えています。
「あの記事、PANELIZEに書いてあったな。」
私たちはそんなふうに思い出してもらえる技術メディアを目指しています。
製品の紹介ではなく、設計の考え方を。
ノウハウを囲い込むのではなく、現場で役立つ知識を業界全体へ。
このTechnical Notesが皆さまの次の現場で少しでも役に立てば幸いです。
また次の現場でお会いしましょう。
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※Technical Notesは、現場で得た知識を少しずつ積み重ねる技術シリーズとして更新しています。




